苫米地英人 「電通 洗脳広告代理店」



発売されて間もなくアマゾンで注文したものの、どういう訳か届くまでにかなり時間がかかったりで読むのが少し遅くなってしまったが、やっと手元に届き賺さず読んだ。電通については少し前に週間金曜日取材班による「電通の正体―マスコミ最大のタブー」を読んだが、本書はさすがに苫米地さんの著作ということで深さというか濃さというかエグさが違う。


序章は割と一般的な内容なので教養のある人なら基本的には驚かないと思うが、メディアにおける広告の存在やそれがどのように言論空間に作用するかなど、平易ながらも本質的な解説を含んだ導入となっている。


第一章も以前から苫米地さんの著書を読んでいる人ならば特別驚く内容は少ないかもしれないが、戦後の日本におけるGHQ統治下ではStanford大学のErnest Hilgard教授の協力によるWar Guilt Information Program(リンク先の内容を吟味・検証したわけではないが詳しいのでリンクしておく。)が行われていた事実や、小泉内閣下ではSLIED社などが郵政民営化政策推進のために活動していたことは知っておくべきだろう。また、最近のシリコンバレーではSentiment AnalysisやOpinion Miningといった自然言語処理をベースとした技術によってソーシャルメディアのモニタリングなどを行っている企業が活発であることも知っておいて良いと思う。こういった企業の中にはCIAのファンディングであるIn-Q-Telから資金を得ているものもある。



第二章では広告代理店というのがどのような仕組みでお金を儲けているのかや、電通という会社について説明されている。この辺りについては前掲の「電通の正体―マスコミ最大のタブー」にてある程度学んだが、従軍記者の光永星郎が自分自身が書いた記事が新聞社にすぐに届かないことを不満に思い始めた電報通信社に発するというのは知らなかった。


第三章は本書の中核的な章で、本書以外ではなかなか知ることのできない内容が最も凝縮されている。特に、GHQ占領政策におけるCIAと電通の関わりを推察させる具体的な事件や、電通の株主構成から伺える事柄については、一般の人が本書以外で知るのはなかなか難しいのではないかと思うので是非実際に読んでもらえればと思う。


第四章ではアメリカが如何にして自国の技術を戦略的に世界に広めていてるかというような話が書かれている。この辺りのことを知ってしまうとシリコンバレーの仕組みも分かってしまうわけで、何も知らないふりをして一緒に踊ってはいられなくなってくる。アメリカで開発された原発という技術がどのように世界に広められて現在どのような帰結を見ているかは日本人なら痛いほど良く分かっているはずだ。そもそもアメリカという国は軍事研究を大学などで行って、民間に下ろされた技術をシリコンバレーなどで優秀な外人を集めてサービス化しているわけで、それらを仕切っている主要なVCや成功者として讃えられる起業家は当然アメリカ人なわけだ。というか結局みんな政府の出先機関なわけだ。もちろん外国からの資本もたくさん入っているし外人の起業家もたくさんいるわけだが、コアな権力となるような部分は渡さないような仕組みで動いていると考えるのが当然だと思うし、経験的にも納得がいく。


第五章はこのようなメディア環境の中で自分を防衛するための提言で、終章はそのような現状を変えようという話が書かれている。個々人の防衛方法については、自分自身はすでに浅ましい恣意的な情報に騙されない程度のリテラシーは持ち合わせているが、大多数の人達がまだまだ翻弄されている現状には正直嫌気がさす。現在自分が持っている問題意識は自分自身の防衛ではなく、このような現状を変えるためにどのように生きて行くかということである。大多数が何も知らずに踊っている中で、しかも彼らは自分の見たくないものは目の前に突きつけられても見ようとしないわけで、合理的なコミュニケーションをとるのは非常に難しい。正しいことを言っていても権力者が気に入らない異端者を排除するのは日本社会に限ったことではないし、長期的な全体の利益よりも現在の自分自身の利益を優先するのは日本人に限ったことではない。真実を知ってしまった異端者がどのような末路を辿っているかは歴史を見れば明らかだ。後戻りはできないが、これからどっちに進めば良いかも良く分からない。一人じゃ何もできないが、周りに本気で同じゴールをシェアしてコミットできる人間も今は見つからない。自由に生きるための道はまだ見えてない。

苫米地英人, フィデル・カストロ・ディアスバラールト 「もう一歩先の世界へ 脱資本主義の革命が始まった」




本屋でたまたま見つけ、著者の名前に惹かれて小一時間ほど立ち読みしていたら全部読んでしまった。

フィデル・カストロと聞いてキューバの革命家本人かと思ったが, フィデル・カストロ・ディアスバラールトはフィデル・アレハンドロ・カストロ・ルスの長男らしく、モスクワ大学原子力工学の博士号を取得した科学者らしい。


これまでキューバとは特に関わりがなかったので文化や歴史、国柄についてあまり詳しいことは知る機会はなかったが、なかなか面白い国だなと思った。本書の趣旨としては、要するにキューバで起こったような革命を日本を初め世界でも起こし資本主義の弊害から人類を解放し、戦争と差別の無い世界を創ろうという話。そのためにキューバから学べることは多いという。キューバの革命思想の根本にはチェ・ゲバラの存在があるわけだが、この辺りについてもいずれ知りたいと思っているので↓の映画のDVDを見ようと思っている。




本書では環境問題などを中心に資本主義を論じ、CO2による地球温暖化説やCO2排出権取引などを批判している。まぁ、この辺りについては以前色々と読んだので特に真新しい内容ではないが、とりあえず前提ということで。


まず興味深かったのは、キューバの医療技術は非常に高く9・11やハリケーンカトリーナの際には被害者及び被災者の医療支援を行ったという話。アメリカの医療システムが資本主義による弊害でbrokenなのは周知のことだが、それをキューバが支援していたとは知らなかった。検査の結果他の病気も見つかった患者に対しての治療も申し出たがアメリカ側が断ったという話は驚きだ。まぁ、アメリカらしいと言えばらしいが。。また、キューバでは高等教育も無料で行われているらしく、教育や医療に無闇に自由競争を持ち込むべきではないという主張を体現してるように思った。このようなアプローチは北欧諸国でも実施されているようだが、最近うまく回らなくなってきたという話も聞くので最近の動向をもう少し詳しく知りたいところではある。


このような資本市議の弊害を踏まえ、苫米地氏は日本は自衛隊を解体して削減された軍事費で世界の貧困を撲滅するために貢献すべきだ主張する。例え軍事力が無くとも世界の貧困撲滅のために奉仕する日本を侵略することは世界の同盟国が許さないから問題無いという主張らしい。これだけ聞くとナイーブに聞こえるが、それをどのように実現しようと考えているかはもう少し詳しく聞いてみたいとは思う。人間の煩悩を甘く見たマルクスの二の舞にならないように理想を実現するにはどうせれば良いのか。


まぁ細かいことは色々あるが、社会の根本的な仕組みから考え直す動機になるような内容で面白かった。日本という国柄があるのでまぁ分かるのだが、そもそも一夫一妻に拘る意味はなんなのかなぁとか。集団の中で生きる個々人の幸福と集団全体の面子というか体裁のどちらを優先させようと思っているのかが見えてくる。


苫米地さんの本を読んだり話を聞くと良いのは自分が無意識のうちに縛られている前提から解放されて思考できるようになることだと思う。何となく新しいアイデアが浮かんできたりする。

「アメリカに行ってエンジニアリングを学びたい中学生」を見て感じること


Twitter上で@cloooote君という中学生が暴れているのを見かけた。どうやらアメリカでエンジニアリングお学びたいらしい。日本にいるとシリコンバレーぐらいしかうまく回っているシステムがないように見えるせいか、最近のNHKを含めた日本のメディアにはシリコンバレーマンセー現象が蔓延っている。実際はシリコンバレーからの金が電通に渡りその結果日本の情報空間に影響を与えているわけだが、14歳の中学生にはそんなことまでは思いも至らないだろう。シリコンバレー側も日本からの金を必要としているという現状からも見えてくるものがあるはずだ。


14歳といえば(15歳だったかもしれないが)自分の人生においてもかなりの大きな舵を切った時期だった。あの時の決断がその後の自分の人生の方向を決めたといっても間違いではない。まぁいいや、自分の話を始めると長くなるから止めておこう。


この件に関してkiyoto君DanKogaiさんがブログに書いている。Blogosphereの言論空間に参入するつもりは毛頭ないのだがとりあえずblogに書くのが手っ取り早いので色々と感じたことを書いておこう。


kiyoto君は同じく14歳の時に親の都合でアメリカに来たらしく、英語で苦労しながらもスタ大で数学を勉強した後トレーダーになったが、その後どーゆー訳かシリコンバレーPHPの変ジニアになったらしい。しかもアメリカ人にまでなってしまったらしい。彼は日本人にとっては英語はとても難しいものだと思っているようで「それは人に依るんだよ」と言ってあげたいが、まぁ置いておこう。要するに彼はアメリカの良いところを並べて幼気な14歳の少年を自分の選んだ道へと引きずり込もうとしてる訳だ。まぁ、彼はアメリカ人になったときにアメリカに忠誠を誓った訳だからそうするのが合理的なんだろう。


一方、DanKogaiさんは学力、外交力、財力という現実的に必要になる力を挙げて、「君にこれらの力があるのか」と問いかけている。@cloooote君のTwitter上での振る舞いを見ていると自分の現状に対する焦燥感、日本の将来に対する危機感から自分が現在持っている力を度外視し、不確実な部分については楽観的に他人の力を当てにしてとにかく逃げ道を探しているようにしか見えないのでDanKogaiさんのアドバイスは非常に適切なものだと思う。DanKogaiさんは以下のような言葉で纏めている。

それは、他者の力を乞うには、自らも力を持たねばならないということ。

それは、他者から何かを得るには、自らも与えるものを持たねばならないということ。

要するにgive and takeということだ。自分がこのことを実社会で感じ、ある程度理解したのは10代の後半ぐらいだったと思うが、まだしっかりと身に付き実践できている訳ではない。アメリカではこの論理がかなり厳密な論理として社会の根幹に根付いているのでしっかりと適応するにはある程度の冷酷さも必要となる。優しさに包まれて育った日本人には抵抗があるところだろう。@cloooote君はDanKogaiさんのような人が自分の時間を使ってこのようなアドバイスをしてくれたことに感謝するところからまずは始めるべきだろう。


これで大体@cloooote君に関する話は完結するのだが、もう少しこの「アメリカ流give and take」という論理について考察してみたい。一般にgive and takeというとgiveの総和とtakeの総和が同じくらいになるようにしましょうねということだと思うが、ここで言う「アメリカ流のgive and take」はより弱者に厳しく傲慢で冷酷、自己中心的な論理である。簡単に言うと、全てのmoveにおいて自分にとって最適となる選択肢を忠実に選び、自分に有利になる選択肢が無い場合は動かないというものである。めんどくさいのでわざわざ例を出して説明することはしないが、これを皆が忠実に遂行すると全体が部分最適化される。要するに勝ち組と負け組ができて、放っておくとその差がどんどん拡大し最終的にはゲームが成り立たなくなり反乱が起きる。今世界で起こっているのはまさにこれで、システム全体がlocal minimaに嵌った結果random startを必要としている訳である。ただ、これを現実世界で行うのはなかなかの混乱や痛みが伴うので逡巡しているようにも見える。しかしアメリカが日本と違うのは問題を本気で解決する動きが内部から生まれてくることである。AnonymousやOWS等が良い例かもしれない。そういう意味でアメリカの将来についてはある程度楽観的に見ているが、実際どうなるかは分からないので2012年を注視していきたい。

田中周紀 「国税記者  実録マルサの世界」




第七章に書かれてるクレディスイスの八田さんのtweetを見て衝動買いしてみた。日本の中枢権力である国税には以前から興味を持っていたが、日本社会の秩序がどのように保たれているのかを知ることができる良書だと思う。ただ気になるのは基本的な姿勢がかなり国税寄りで社会正義のような扱いをしていること。国税の情報に基づいて特捜が動きさらにマスコミが煽って社会悪を抹殺する仕組みの機能不全は否めない今日この頃なので、もう少し権力チェックという名の批判的な目線があっても良いのではないか。例えば第九章に書かれているGWGの折口氏の件で厚生省に問題は無かったのか。その辺りを完全にスルーしてしまうところに著者の能力を感じてしまうが、まぁそれが記者クラブ体制というものなんだろう。


本書のはじめに、脱税は国民全員が被害者となる犯罪行為なので「脱税する奴は道路を走るな」、というようなことが書かれているが、もっと大事なのは冤罪で無実の人の人生を台無しにしないことであり、差別的に不平等な扱いで新たな挑戦者を潰さないことにも十分気をつける必要があるのではないか。査察が入った時点で逮捕→有罪というところまで決めつけてしまう姿勢には推定無罪という概念を理解している様子は全く伺えない。章の終わりが「悪者は摘発され葬られました。めでたしめでたし。」のように書かれているのにも正直嫌気がさす。また、世の中の変化に適応しきれていない古びたルールによって社会の活力を削がないことの重要性などについては思いつかないのだろうか。それともそんなことを本に書く自由はそもそも日本にはないのか。おそらく貴重な情報源である当局に批判的なことを書いて情報入手に支障が出ることを嫌ってそんなことは現実的に書けない仕組みなんだろう。まさに記者クラブ問題。


それから査察→逮捕→有罪という流れを暗黙のものとして逮捕時の報道のために推定無罪の人間を盗撮して回っているマスコミの人間たちを放置しておいても良いのだろうか。そんな人間がウロウロしている社会に住みたいか。報道の公共性がキーポイントなのだが、マスコミの下劣さを見ているととてもじゃないがそのような行動を肯定できない。ただそれはそのような下劣な報道を求めて消費している愚かな視聴者に根本的な原因があるので正すべきは一人一人のモラルや教養なのだが。


もちろん不当に脱税を行って私腹を肥やす行為は許されるものではなく厳しく罰せられるべきだと思うが、一方でそのような不法行為をしないと豊かになれない社会や現在の秩序維持体制によって活力を失っている日本の現状を危惧する必要もあるだろう。急激な業績向上によって対応しきれず脱税を行う経営者たちがよく国税に狙われると書かれているが、それは本当に経営者の意図だけに問題があるのだろうか。会社経営の実情がどのようなものかを全く知らない官僚によって設計された税制システムに問題がないとは思えない。何もかも十把一絡げに扱おうとする日本社会の悪い癖に根本的な原因があるように感じられずにはいられない。Steve JobsのBack Date問題を寛容に処理し彼の才能と業績を讃えることによって公の利益を最大化した処置にもう少し見習っても良いように思う。その辺りを考慮した運用が現場ではきちんとされているのだろうか。というかそもそもその裁量による権限を無批判に与えてしまって良いのだろうか。国税に就職したガチガチに頭の固い知り合いを思い浮かべると不安になる。その頭の固さが口の堅さとなっている面もあると思うので一概には悪いとは言えないが。


と、まぁ思いついたことをつらつらと書いているとかなり批判的になってしまうのだが、それは本書を読み終わった後に感じる日本社会に対する嫌気に起因するものであって、本書の内容が一般的に見てそこまで悪い訳ではない。第七章のクレディスイスの件に関する指摘は興味深いものだし、最終章にも言い訳程度ではあるが国の愚民政策に対する批判も書いてある。そもそもこれほどの具体例を出して国税の活動について書いてある時点で価値ある一冊だと思う。要するに必要なのはこのようにしか書けない日本社会の現状を本書から読み解く読者の能力ではないかと思う。

週刊金曜日取材班 「電通の正体」




ちょっと古い本だが電通の実態について赤裸々に書いている数少ない本ということで読んでみた。広告代理店がマスコミを牛耳っているというのはよく聞く話だが実態についてはあまり良く知らなかった。週刊金曜日取材班の著作なので週刊誌的な書き方が多く考察についてはやや薄かった印象だが業界の裏話について知るには良いのではないかと思う。


電通は寡占状態にある広告業界における圧倒的な力を利用してテレビ・新聞を中心としたメディアを牛耳り、産業界に限らず政治にも大きな影響力を持っているらしい。特にテレビ事業の収益のほとんどは広告収入であり、広告主との仲介ビジネスにおける支配的な地位と子会社のビデオリサーチによる視聴率調査の独占により、その支配力は圧倒的なようだ。


アメリカではマーケティングの手法を選挙に多大に利用するという話は良く聞くが、最近では日本の広告代理店も多いに参加しているようだ。沖縄で稲嶺知事の当選や小泉政権下での政治手法にも色々と関わっていたらしい。以前、沖縄県知事選に官房機密費がかなり使われたという話を聞いたことがあるが、その辺りとの関係についても興味がわいてくる。オリンピックや万博のような国家的なイベントにもかなり深く関わっているようで、基本的に日本で大きな物事が動くときは大体電通が関わっているのかなと思った。


社員には政治家や財界人の子息が多数いるらしくあちこちにかなりの人脈があるようだが、スーパーフリーや薬物に関わって捕まった社員もいるらしい。この辺りについてネットで探してみると、だいぶ情報が消されている印象を受ける。一つ興味深かったのは、以前は電通についての本をがっつり書いていた田原総一郎も妻の葬式を成田豊に頼むなどかなり深い繋がりがあるようだ。こんな話が知れたのは週刊金曜日の本を読んだからなので良かったかなと思う。なんてことを考えながらアマゾンをウロウロしていたら近日中に発売予定のこんな本を見つけてしまった。



これは読みたいぞ〜。

猪瀬直樹 「昭和16年夏の敗戦」




日米開戦前に若手エリートを結集して創設された総力戦研究所の話。日本とアメリカの国力を分析し国家の意思決定に必要となる研究を行うために招集され、平均年齢33歳の模擬内閣を組織し開戦についての検討を行った。昭和16年の夏に模擬内閣が出した結論は以下のようなもの。

  • 12月中旬、奇襲作戦を敢行し成功しても緒戦の勝利は見込まれるが物量において劣勢の日本に勝機は無い
  • 戦争は長期戦になり、終局ソ連参戦を迎え日本は敗れる
  • 日米開戦はなんとしても避けなければならない

つまり、昭和16年の夏には日本の敗戦はすでに予想されていた。
実際に東条内閣が検討した案は以下のようなもの。

  • 戦争すること無く臥薪嘗胆する
  • 直ちに開戦を決意し戦争により解決する
  • 戦争決意の下に作戦準備と外交を併行する

参謀本部(大本営陸軍部)は当然即時開戦を主張し、12月初頭という期日まで提起する。軍令部(大本営海軍部)は11月31日までならば外交交渉をやってもいいとの意思を表示する。ハワイ奇襲作戦を成功させるなら気象条件から12月中旬までというのが海軍の本音らしい。ちなみに開戦した場合に実際にアメリカとやるのは海軍なので陸軍は勝手なことを言っていたらしい。

この頃の日本の極秘電文はアメリカ政府にすべて解読されていて、日本の参戦は予期されていたようだ。この主張は「空気と戦争」に書かれていた、「機密保持を徹底した真珠湾攻撃アメリカは慌てふためいた。」という話と矛盾するが、こちらの方が正しいように思う。その後アメリカは所謂ハル・ノートを突きつけ、日本はアメリカの思惑通りに開戦へと駆り立てられる。

猪瀬直樹 「空気と戦争」




今のうちにもう一度歴史を勉強しておかければと思い猪瀬さんの著書を数冊買い集めて読み始めた一冊目。


まず、「はじめに」にいくつか気になることが書かれていた。

戦前から始まっていたアメリカナイゼーション
好景気をもたらす戦争を歓迎する国民
靖国神社遊就館の日米戦争はアメリカが不況から脱するために仕掛けたとの主張はウソ
機密保持を徹底した真珠湾攻撃アメリカは慌てふためいた

しばらく前から聞くようになったグローバリゼーション=アメリカナイゼーションだが、日本では戦前からアメリカブームでその頃からアメリカナイゼーションは始まっていたらしい。それから、解決しがたい内政の問題によって鬱憤が蓄積することが戦争を始める動機となることはよく言われるが、当時の日本もそうだったようだ。そういう意味では現在の日本は独裁者の出現により大幅に間違った方に舵を切る風土があることは十分に認識しておくべきだろう。猪瀬さんの主張によると、日米戦争はアメリカが不況から脱するために仕掛けたものという主張はウソらしい。また、真珠湾攻撃についても日本側の暗号はCIAに完全に解読されていて全て筒抜けだったらしいと思っていたが、猪瀬さんの主張は違うらしい。この辺りは最近翻訳されたルーズベルトの責任を読まないと良く分からない。



  • 戦争開始前の状況

当時の日本では人造石油の研究というのも行われていたらしいが、成果は芳しくなかったようだ。アメリカの石油の全面輸出許可制によって事実上の輸出禁止が行われ、国内に備蓄されている石油残量のみとなりジリ貧状態に突入。石油確保を目的に当時オランダの植民地下だったインドネシアへの進駐を検討する。その頃ドイツがソ連に侵攻する。北側が忙しくしているうちに、アメリカ領のフィリピン、イギリス領のマレーシアとシンガポール、中国、オランダ領のインドネシアというABCD包囲網を突き破り南進するという案が浮上。また、満州を諦めれば朝鮮と台湾は残る可能性もあるが、中国大陸で死んだ日本兵10万人(明治時代のから戦死者を加えた大雑把な数字)が犬死になるとの主張で、(宮台真司的に言うと)「今さら止められない」との結論へ。

緒戦は勝つがやがて国力、物量の差が明らかになり最終的にはソビエトの参戦という形で必ず負ける、よって日米は決して戦ってはならないとの結論を近衛内閣の閣僚の前で発表するも、東條陸軍大臣により机上の空論と一蹴され、日露戦争のような神風を理由に研究結果の発表を封鎖される。この辺りは昭和16年の敗戦に詳しいらしい。





  • 開戦から敗戦へ

総力戦研究所の敗戦間違い無しとの結論にも関わらず、御前会議にて日米開戦止むなしとの結論が出される。一つ意外だったのは、天皇は「君臨すれども統治せず」という話。戦前から象徴的な扱いがあったとは知らなかった。そのため御前会議では意見できず明治天皇の歌を詠んだらしい。

四方の海 皆同胞と思ふ世に
など波風の たち騒ぐらむ

「虎穴に入らずんば虎児を得ず」の発想でいちばん戦争をやりたがっている陸軍の急先鋒の東條を総理大臣にする。和平に傾斜したときに備え若手将校によるクーデターや右翼による要人暗殺を警戒し内務大臣も東條が兼務することに。しかし、都合の良い数字をでっち上げて推進する官僚の暴走を止められず、最終的には所謂ハル・ノートを突きつけられ開戦へ。天皇の意向にそえず東條は涙したらしい。

まずインドネシアスマトラ島にあるパレンバン油田を落下傘部隊が急襲し、油田は手に入れるものの輸送タンカーがアメリカの潜水艦の餌食になり結局石油を輸送することはできず。昭和19年7月サイパン島陥落の責任を取り東条内閣が倒れる。昭和20年3月10日サイパン島から飛び立ったB29爆撃機314機が東京大空襲。3月17日に硫黄島陥落。4月1日にアメリカ軍沖縄上陸を受け小磯内閣総辞職鈴木貫太郎海軍大将が内閣を引き継ぐ。5月29日、B29爆撃機475機とP51戦闘機約100機が横浜を空襲。8月15日敗戦。


戦前と戦後を貫く官僚主権と全てを決定し逆らうことを許さない「空気」という名の同調圧力によって物事が動いてくのは当時から何も変わっていない。