バンクーバーについて


この夏、カナダのバンクーバーにしばらく滞在していた。
色々と感じることがあったので忘れないうちに書いておこうと思う。


バンクーバーはカナダの西海岸側のアメリカとの国境のすぐ近くに位置しており、気候や環境、文化などもアメリカの西海岸側と似ているところが多くある。特に、サンフランシスコやシアトルとはかなり共通点も多い。

バンクーバーと聞くと2010年の冬期に行われたバンクーバーオリンピックを思い浮かべる人も多いかもしれない。その影響もあって、かなり寒い場所だと思っている人が多いかもしれないが、夏は温暖で非常に過ごしやすいところである。冬もそこまで言うほど寒くはならず、気温としては東京の冬とそこまで大差なさそうな印象だ。ただ、夏以外はあまり天気が良くなく、雨の日が多いらしい。ちなみに、バンクーバーは2011年のEconomist誌のThe most livable city in the worldにも選ばれている。たしかに非常にlivableなところだった。


行く前はアメリカをもう少し優しくしたような感じかなぁと思っていた。アメリカの悪いところが多く目につくようになった今日この頃なので、もう少し優しそうなカナダの癒し具合には割と期待していた。結論を言うと、カナダ人には優しくて良い人がとても多い。他人に対しても困っていたら助けてあげようという気持ちが普通にあり、アメリカ人のような強欲さもない。バスや電車の中ではお年寄りに席を譲ってあげる人達の姿を良く見かけ、車いすの人が乗って来たときに居場所が確保されていないと声を出して注意するちょっとおせっかいそうなおじさんやおばさんがいたりもする。何となく昔の日本にもこういう風景があったのかなぁと思ったりもした。カナダの子供たちは人なつこくて、とてもかわいい子が多い。こうゆう子供たちが育つ環境というのは社会的に色々なことを示唆していると思う。誰か本格的に研究してる人の話を聞いてみたい。


他人にも優しくできるのは、社会に信頼や安心があるからだと思う。それは滞在中に接した都市の設計や社会の仕組みからも感じるところがあった。例えば、バンクーバー近辺は非常に交通の便が良い。市内とその近辺には、Skytrainというモノレールのような無人運転の電車と、同じくTranslink社が運営するバスネットワークが広がっている。つまり、独占的な運営形態なわけだが、料金は1ゾーンと呼ばれる区間は2.5ドルと高くない料金で移動できる。さらに島と島の間はシーバスという水上バスやフェリー、水上飛行機などで移動できる。車で移動している人達もたくさんいるのだが、車無しでも困らずに生活ができる。公共の交通機関を充実させることで、自家用車の必要性を低くしようとしてるらしい。また、シーバスの汽笛やカモメの鳴き声が醸し出す雰囲気は、人の心を優しくするのにかなり貢献していると思った。


ダウンタウン近辺にはレストランやバー、カフェなどなどが集まっている地域がいくつもある。中心のWaterfront駅の東側にはバンクーバー発祥の地であるGastown、その南にあるチャイナタウンを超えるとシャレた雰囲気のYaletownがあり、Yaletownから西に進むRobson street沿いにもたくさんのレストラン、バー、カフェなどがある。Waterfront駅とRobson streetを結ぶGranville streetはダウンタウンのメインストリートのようなところで、ナイトクラブなどがたくさんあって賑わっている。夜この辺りを歩くと、甘くて焦げ臭いような何かの匂いがあちこちでしていてバンクーバーに対する理解を深めるきっかけになったりもする。より理解を深めたい人はEast Hastingsに行ってみると良いだろう。ただし、昼間の明るいうちに通りがかるぐらいにしときましょう。

ダウンタウンの西側には高そうな高層マンションがならぶCoal Harborという地区があり、西端にはStanley park、南にはEnglish bayがある。English bayへ向かうDenman street沿いにもレストラン等々がたくさんある。頑張れば徒歩でも行ける範囲内にこれだけ色々あり、あちこちでしょっちゅうイベントをやっていたりもするのでのでなかなか退屈しない。

ダウンタウン以外にも近くにビーチや渓谷、ハイキングができる山など自然系のアトラクションが色々あり遊び放題なのだが、観光案内をしたいわけではないのでこれ以上そこに突っ込むのはやめておこう。ただ、Celebration of Lightという花火イベントのクオリティーはかなりスゴかったので触れないわけにはいかない。1週間に3回もあれだけ盛大な花火を打ち上げまくるイベントが世界を探しても他にあるのかは分からない。花火の技術もスゴく、ちょっと前に見たIndependence Dayの花火がショボく感じたぐらいだった。さすがにEnglish bay周辺はけっこーな人ごみなのだが、その価値はあったと思う。


また、興味のあったバンクーバーのスタートアップシーンについても色々と知ることができた。GrowLabHiVELaunch Academyといったインキュベータがあるようで、毎週どこかでイベントをやっていたりする。規模としては10人以下の小さな会社が多いようで、さっさと売っぱらうモデルでやっているところが多いようだった。ただ、カナダ政府も最近この辺りには力を入れているようで、就労ビザアメリカに比べるとだいぶ取るのが楽そうだった。ゲーム関係の会社がけっこうあるようで、日本からもGreeDeNAが最近オフィスを作ったようだ。ただ、全体としてはこれからという印象で、一つ大成功する会社が出てくると状況は大きく変わるだろうなという感じだった。その意味では、今この地域で勢いのある会社の人達と色々と交流できたのは良かったと思う。


滞在中に一番強く心に残ったのは、カナダの人々についてだった。季節的に旅行シーズンだったこともあり、他の州から旅行に来ている人達もけっこういたのだが、皆良い人達で、滞在中に嫌な気分になることがほとんどなかった。唯一苦労したのは入国のときの審査で、かなり入念に荷物などを検査された。どうやら最近日本の警察が、日本で強盗殺人事件を起こした中国人の犯人の関係者が偽造パスポートでカナダに入国した件でカナダ当局と色々やりとりをしている影響があったようだ。到着直後に予想外の災難にあったので好感度を下げつつあったものの、その後に出会った人達は十分に好感度を回復してくれた。

バンクーバーは港町ということもあり、世界中から多様な人種の人達が集まって来ている。歴史的な影響か、アメリカに比べるとイギリス系やフランス系を初めとするヨーロッパ系の人達が多いように感じた。また、ワーキングホリデーで来ているドイツ人やイタリア人、韓国人や日本人もたくさんいた。この人達はアメリカの大学に留学しに来ている人達とはだいぶ違う種類の人達で、新鮮に感じた。

また、バンクーバーにはインディアンの血を引く人達も多くいる。彼らは今まで自分があまり関わったことの無い類の人達だったが、独特の歴史観や近代西洋的ではない考え方は興味深く、共感できる部分も多くあった。


このような、そこにいかなければ会えなかった人達との関わりから得た経験が今回の滞在の一番の収穫だと思う。これらの経験がこれからどのように自分の中で消化されて活かされていくかはまだ確かには分からないが、ポジティブな影響があるのではないかと期待している。