梅田望夫 「シリコンバレー精神 -グーグルを生むビジネス風土」



本書では、「ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる」で有名な梅田望夫氏が1996年秋から2001年夏にかけてのシリコンバレーを自身の経験に基づいて描いている。梅田望夫氏は本書の中で、シリコンバレーを「天才たちが富を創り出す天気のいい田舎町」と表現している。これは、シリコンバレーでは世界中から集まった天才たちが起業し、株式公開もしくは大企業への売却という形で次々に億万長者となっていくが、そんなシリコンバレーは実は天気のいい田舎町だったという意味である。また、当時は世界の片隅で輝いていたシリコンバレーも、ITブームやネットバブルの中で世界中から注目される存在となり、世界経済に大きな影響を与える場所となったとも記している。このベンチャーを生み出す風土として、シリコンバレーの「失敗しても返さなくていいお金」の存在を指摘している。これは、シリコンバレーには起業資金を日本のように銀行に担保を預けて借りるのではなく、企業家の可能性に投資するベンチャーキャピタルが多くあるという意味である。この風土が過剰なネットバブルを引き起こしたとも指摘しているが、こういったチャレンジ精神を応援する考え方には正直憧れる。また、世界トップレベルの人材が集まるスタンフォード大学の存在も大きな要因として挙げている。シリコンバレーには、産業界がスタンフォード大学の中に手を突っ込んでかき回しながら常時人材を探し回っているような産学連携の形があるらしい。3年前にサンノゼサンタクララ大学というところに1ヶ月間滞在した際には、研究のこともまだ良く分からず「天気のいい田舎町」という印象しか持たなかったが、今そう言われるとあの場所を見事に表現している気もする。
シリコンバレーの雰囲気として、「ナードの価値」が理解されていることも挙げている。「ナード」は「ギーク」のような意味で、いわゆるコンピュータ大好き人間のことである。ちなみに、日本ではこの価値がまったく理解されていない。この「ナード」という存在がLinuxというものを生み出し、MicrosoftWindowsを脅かしているということは多くのことを示唆している。また、そういった流れがITの次の時代を創り出そうとしているのが2006年現在なんだと思う。本書ではちょっと前に騒がれていた「IT革命」というのは単なる「IT化」で、本当の「IT革命」はまだ起こっていないと指摘している。そう言われると確かに世間で騒がれていたのは単なる「IT化」だったような気がする。革命らしいことは特に起こらなかったというのが今の実感として確かにある。これから本当の革命が起こるのかどうかは誰にも分からないが、現在騒がれているWeb2.0というパラダイムの中心となっているGoogleは、当時のドットコムブームの中で検索という世間とは違うことをやっていたわけで、今もそのような存在が世界のどこかで何か世間と違うことをやっているはずだという本書の締め括りには期待したいし、その次ぐらいには自分もその中にいたいと密かに考えている。