小室直樹 「痛快!憲法学」




買い集めておいた小室直樹の著書の1冊目。平易に書かれていながらも非常に内容が濃く、10年ほど前の著作にも関わらず時差を感じさせない鋭さがあった。


憲法学というタイトルから法律論のような内容をイメージしていたが、小難しいことではなく世界の歴史や思想を背景とした現代の社会システムの本質が明快に説明されていた。憲法とは何なのかはもちろん、民主主義とはどのようなシステムでどのように生まれたのかや資本主義とは一体どのような概念なのか、何故現在の日本が衰退の道を辿っているかといったことが明快に理解できる内容となっている。


そもそも民主主義の基本である人権という概念が標榜する平等という概念はキリスト教における神の存在が在って初めて成り立つものであり、キリスト教への理解が浅い日本人には理解が難しい。伊藤博文天皇キリスト教における神の代わりとすることによってこれらの概念を日本に根付かせ日本の近代化を行うが、先の大戦での敗北により天皇人間宣言を行い天皇教の神話は崩壊する。そして戦後の日本では、機会の平等であるはずの平等という概念は結果の平等という悪平等として育ち、権力からの自由であるはずの自由という概念は放埒と同義語になってしまう。そのため本来の平等という概念を担保するためのシステムは社会に組み込まれず、権力を監視するシステムも完全な機能不全に陥り人々が権力を有する行政システムに依存する状況となっている。


現状のシステムを維持したままでは本質的な問題を解決することは不可能で社会システムを根本から再構築し直す必要があるというのが本書の締めくくりである。これだけ問題山積で先が見えない状況が続きながらも現在の日本人にそこまでの覚悟があるとは思えず、現実的に革命的な変化を起こせる状況でもないのが絶望的だが、衰退の道を着実に辿っているのは間違いないだろう。


本書がより広く読まれ、本書に書かれている内容を多くの日本人が共有するようになれば少しは変化の兆しが見えてくるかもしれない。