森達也 「A3」




1995年の地下鉄サリン事件を代表とする一連のオウム事件を多くのマスコミとは違う角度から追いかけてきた森達也氏の近著。ニコ動でやっていた特集を見て興味を持ち本書を読んでみた。1900円+税はちょっと高いがそれなりの内容がある本だったと思う。


当時はまだ中学生ぐらいだったので良く分かっていなかったが、これをきっかけに日本は9.11以降のアメリカのような状態に突入して行ったんだろう。人々が強い恐怖に駆動されて異物を社会から徹底的に排除しようとした結果、メディアが世論に迎合し、政治・行政の舵を切り社会の形を大きく変えた。


上記のニコ動の特集で上映されたA2では一連の事柄を反対側から見た様子が描かれている。テレビの中に写っていた異常者たちが実は非常に純粋そうな若者であることに驚く。物事を見る立ち位置を変えることで大きく印象が変わることを実感する。一見自分たちと変わらない人間があのような残虐な事件を起こす等ということは受け入れられない。その結果メディアは事実を歪曲してでも印象操作を行う。最近になり多くの人が知ることになったメディアの姿は当時から存在していたようだ。


本書の中で特に印象に残った点は、歪んだ組織が個々人に影響を与え動かす仕組み。組織のトップの意向を過剰に忖度・利用し、組織内での自分の立場を向上させるために末端の人間を動かす姿は戦時中の日本の姿に酷似している。安易に連想するのは避けるべきかもしれないが、近年の歪んだ会社組織にも同様の状況を感じざるを得ない。


人格形成はどのような組織の中で時間を過ごすかに大きな影響を受ける。その結果、人生も大きく左右されることは多い。現代社会の中で個人が組織を選ぶのは常に難しい。社会の中で個人の力をより強くする方法を考えている今日この頃だが、本書から受けた示唆は多かったように思う。


組織に依存せずに生きれるようになることを大学卒業時に目標としたが、まだ実現はできていない。